その一 謹呈

坪内稔典氏 句集 河馬100句 2025年4月

五句抄出

春暁のくるくる動くカバの耳

泳ぐカバ泳ぐおばさん春の昼

アフリカの夕べのように夏のカバ

水を出るぐんにゃりと出る夏のカバ

寝そべって山の息して冬の河馬


川島由紀子氏 句集 アガパンサスの朝 2024年11月
 
五句抄出

雪うさぎわたしも少し溶けかけて

言い負けてまた手を伸ばす桜餅

口論のふっと蜜柑の匂いする

熟したらちょっと冷やしてメロンと愛

ぶきっちょでぶっきらぼうでズッキーニ


二村典子氏 句集 三月 2024年3月
 
五句抄出

柿若葉留守も居留守もしんとして

蕗を煮るアルミホイルの落し蓋

水母浮くいつの間にかという時間

一面の雪安定の不安定

ああどうもこうも伊勢海老の髭


星河ひかる氏 句集 愛語  2021年8月 
  
五句抄出

帰省子の声して鍋の火を止める

ペディキュアを塗るよ日焼けの膝立てて

お見合いの手ごたえ鱧の噛み応え

秋を言う家族の箸を洗いつつ

汀女忌の酢水で洗う流し台


小西 昭夫氏 朗読句集 チンピラ 2020年10月
 
五句抄出

恥ずかしきことの数かずチューリップ

首筋のほくろがきれいかき氷

めくるもの坊主、スカート、初暦

龍天に昇る仕度をしておるか

右手にバナナ左手に牛乳


渡部 ひとみ氏 句集 水飲み場 2020年10月
五句抄出

芽吹きまで空晴れるまであと少し

アイスコーヒー遊覧船に持ち込んで

アマリリスよりにもよってこんな日に

太陽を仕舞うお役目夏芝居

川の風木の風秋の風各位


静 誠司氏 句集 優しい詩 (第一句集シリーズ/Ⅱ) 2020年7月
  
五句抄出

蛇穴を出るマニュアルはないけれど

春の夜スナック令子とバー和子

蛇首に巻き付けている笑顔かな

風鈴と生膝枕などいかが

水鉄砲そんなところがツボだとは


坪内稔典氏 俳句とエッセー 早寝早起き  2020年7月
  
五句抄出

ころがって林檎になって春の風邪

林檎には蜜オレには孤立感

空おぼろ目を見てキスを軽くする

愛はなおデコポンみたい転がるよ

文旦のサクサク感がいいな、今朝


おおさわほてる氏 俳句とエッセー 気配  2020年5月

五句抄出

田植え終え辺り一面空となる

蓮の花ダンクシュートと恋に落ち

WE WILL WE WILL ROOK YOU 曼殊沙華

南風イパネマっ娘にメールする

その隈は徹夜明けです雪女郎


小川弘子氏 句集 We are here 2020年3月
五句抄出

目隠しは襲名手ぬぐい福笑い

娘の娘グレープフルーツ花咲いて

くらやみの黴は瑠璃色そとは雨

夏草を抜く派抜かぬ派そしらぬ派

時にする分不相応金木犀


朝日泥湖氏 句集 エンドロール 2020年2月
五句抄出

バレンタイン中高一貫男子校

世の中を〇と×とに分けおぼろ

反対も賛成もせず冷奴

とりたてて言うほどでない帰り花

あーんしてチョコをもらって春隣


梨地ことこ氏 エッセーと俳句 鏡ハシル 2020年2月
五句抄出

秋の空雲はあってもなくても可

薄氷割って翳して、なにもなし

かちゃかちゃと塗り下駄ひらひらと金魚

新米の粒々イチローのエレガンス

その一片嵌り白鳥飛びたてり


原ゆき氏 句集 ひざしのことり  (第一句集シリーズ/Ⅰ) 2020年2月
  
五句抄出

ばしと折るそのとき季語となる胡瓜

秋うらら舌もて分ける果皮果肉

水鳥の壊した水のもとどおり

春の蓋なかなか開かぬ叩いてみる

変身に擬音あれこれ種袋


イヌピアット語のレッスン 2019年5月
訳・編者 宮嵜 亀 スティーヴン・ヘンリー 坪内 稔典


中原幸子氏 句集 柚子とペダル 2019年3月
五句抄出

うれしい日うれしかった日猫じゃらし

朧月あっちの肩をもつあいつ

ごろり寝るふらりと起きる月のぼる

芽吹いてるみたい握手をしてあげる

ナマ脚のすらり二本という偶数



芳賀博子氏 句集 髷を切る 2018年9月
五句抄出

ゴミ袋ぼそっと突いて薔薇の茎

走っても逃げても向日葵の陣地

春の雨 気を失ってゆく蕾

日雷 金具のついている下着

着ぐるみにバックハグされ秋の暮



村上栄子氏 俳句とエッセー マーマレード 2018年6月
五句抄出

あらら踏んづけちゃったのよ黄金虫

太ももの汗つつつつつ踵まで

仏吐く空也上人小鳥来る

榎の実噛んで皆みな小さき鳥

今私卵産んでる初句会



岡清秀氏 俳句とエッセー 僕である 2018年1月
五句抄出

旧姓の母の名のあり内裏雛

みどりの日座席が空いたから座る

コアララッパパンダ夏帽子ふたつ

秋の雲小言は三つまでにして

地球儀の国名古し青蜜柑



陽山道子氏 俳句とエッセー 犬のいた日 2017年4月
五句抄出

春野ですあの人この人遅刻です

愛されて冷たくされてプチトマト

新涼の眉描き足して朝ごはん

仲直りしようかスダチ絞ろうか

山盛りの泡で洗顔冬銀河



宇都宮さとる氏 句集 蝦蟇の襞 hiko no hida 2017年3月
五句抄出

蛇穴を出かける前のストレッチ

月明り炭の雨落ち艶めきて

M・Cハマーの行ったり来たり初観音

風体を問えば血の出る雪おんな

夏めいてあなたの女といっていい



藏前幸子氏 こちさ短編集 2017年2月



小西雅子氏 俳句とエッセー 屋根にのぼる 2017年2月
五句抄出

理科社会国語ブランコ無口な子

やだという女子高生おり青蜥蜴

どんと干すちっちゃな水着もわたくしも

待宵のサラダふんわりこんもりと

流れ星男の口びるかっさらう



中井保江氏 句集 青の先 2016年9月 
五句抄出

おばさんになりたいおじさん花菜漬け

フリージア君に両手で銃のまね

種袋シャカシャカ鳴るやつ鳴らぬやつ

かき氷溶けても言えぬ君が好き

ひまわりやたまには泣いていいんだよ

坪内稔典氏 自筆百句 2016年2月
五句抄出

風光るケープタウンの窓もだろう

びわ食べて君とつるりんしたいなあ

白南風や午前にちょっとキスをして

がんばるわなんて言うなよ草の花

十二月八日あんパン半分こ