「HAIKU LIFE MAGAZINE 100年俳句計画」

「雑詠俳句計画」入選句

選者・加根兼光  関悦史 阪西敦子 桜井教人

俳号・ヤッチー

2013年6月号〜2020年1月

番号 年月 選者 評価 季語 季節
91 2020年1月号 関 悦史 短日や飲み忘れ無き常備薬

たんじつやのみわすれなきじょうびやく
短日
90 2019年12月号 桜井 教人 碁石打つ音の響きて無月かな

ごいしうつおとのひびきてむげつかな
無月
89 2019年11月号 阪西 敦子 特選 秋の空上手に結ぶ靴の紐

あきのそらじょうずにむすぶくつのひも
秋の空
講評・阪西 敦子

靴の紐を結ぶとき、必ずだれもがうつむくことになる。
すこしずつたるみを締めあげて、最後に丁寧に結び目を作る。
秋の空に目をやるのはそのあとだ。
さあ行くぞという歩き出しを後押しする広がり。
88 2019年10月号 関 悦史 手作りのボトルホルダー水澄めり

てづくりのぼとるふぉるだーみずすめり
水済む
87 2019年9月号 桜井 教人 青天の畦に飛出す雨蛙

せいてんのあざにとびだすあまがえる
雨蛙
86 関 悦史
大章魚の目に浮かびたる切身かな

おおだこのめにうかびたるきりみかな
大章魚
講評・関 悦史

タコ釣りか、水槽で飼われているタコへの給餌の場面か。
「目」に章魚の意識や主体性がかんじられ、食べられる物と判断して注視しているさまがうかがえます。
一見外からタコを観察しているだけの句にもみえますが、そうではなくタコの意識に入り込んでいて、
しかも擬人化していないのが長所。
タコは大変に知能が高い生物なのですが、ヒチと生態が違いすぎてそれを測定する方法がないらしい。
そうした別種の命の存在を感じさせる句。
85 2019年8月号 桜井 教人 過去形の話鮮明新茶汲む

かこけいのはなしせんめいしんちゃくむ
新茶
講評・桜井 教人

過去ではなく過去形にしたことのより、話そのものではなく話をしている様子を映像として切り取ることができた。
新茶の鮮明な香りと過去の話との対比が新鮮だ。
新茶の時期ごとに出会う関係なのかもしれない。
84 2019年7月号 関 悦史 タイ式のマッサージ受く聖五月

たいしきのまっさーじうくせいごがつ
聖五月
83 2019年6月号 桜井 教人 少女等のひかがみ眩し春の風

しょうじょらのひかがみまぶしはるのかぜ
春の風
82 2019年5月号 阪西 敦子 寄せ書きの右往左往や卒業期

よせがきのうおうさおうやそつぎょうき
卒業期
81 2019年4月号 関 悦史 持寄りの弁当広ぐ梅見かな

もちよりのべんとうひろぐうめみかな
梅見
80 2019年3月号 桜井 教人 冴ゆる夜の壁面アート煌めきぬ

さゆるよのへきめんあーときらめきぬ
冴ゆる
79 2019年2月号 阪西 敦子 しりとりの堂堂巡炬燵猫

しりとりのどうどうめぐりこたつねこ
炬燵猫
78 2019年1月号 関 悦史 毛糸編む黙を強ひらる夫かな

けいとあむもだをひいらるおっとかな
毛糸編む
77 2018年12月号 関 悦史 秋冷や背にファスナーのワンピース

しゅうれいやせにふぁすなーのわんぴーす
秋冷
76 桜井 教人 風雨去り零し敷き詰む木犀花

ふううさりこぼししきつむもくせいか
木犀花
75 2018年11月号 阪西 敦子 名月に琴爪付けてみたりけり

ねいげつにことずめつけてみたりけり
名月
74 2018年10月号 関 悦史 珈琲にカップスリーブ秋の風 

こーひーにかっぷすりーぶあきのかぜ
秋の風
73 2018年9月号 桜井 教人 掌に収まるほどの水着かな

てのひらにおさまるほどのみずぎかな
水着
72 2018年8月号 阪西 敦子 オニオンスライス尼僧の目に涙

おにおんすらいすにそうのめになみだ
オニオンスライス
71 2018年7月号 関 悦史 花茣蓙に碁盤の足の窪みかな

はなござにごばんのあしのくぼみかな
花茣蓙
70 2018年6月号 桜井 教人 席替えの悲喜交々や百千鳥
 
せきがえのひきこもごもやももちどり 
百千鳥
69 2018年5月号 関 悦史 治聾酒の零れて湿る地べたかな

じろうしゅのあふれてしめるじべたかな
治聾酒
68 2018年4月号 関 悦史 風船売糸の束より選む色 

ふううせんうりいとのたばよりえらむいろ
風船売
67 2018年3月号 桜井 教人 御降や縁起をかつぐ選手団

おさがりやえんぎをかつぐせんしゅだん
御降 新年
66 関 悦史 長男の息子が口を切る御慶
 
ちょうなんのむすこがくちをきるぎょけい 
御慶 新年
講評・関 悦史

家族揃っての年始回りという、目出度さがくどくなりそうな情景で、
しかも吾子俳句という悪条件ではありますが
「口を切る」から「御慶」で急に年始の挨拶とわかるキレのよさで、
目出度さが自然に立ち上がります。
65 2018年2月号 阪西 敦子 冬服に手足の伸びし三年目

ふゆふくにてあしののびしさんねんめ
冬服
64 2018年1月号 関 悦史 物差しにセンチとインチ針供養

ものさしにせんちといんちはりくよう
針供養
63 2017年12月号 桜井 教人 茱萸の酒飲んで足裏マッサージ 

ぐみのさけのんであしうらまっさーじ
茱萸の酒
62 特選
某私立女子大付属愛の羽根

ぼうしりつじょしだいふぞくあいのはね
愛の羽根
講評・桜井 教人

「某」の部分は読み手にまかされるが、付属という言葉から清楚で品のある生徒たちが浮かんでくる。
登校の光景ともとれるし、募金活動ともとれる。
紺の清楚な制服と赤い羽根の色の対比がきれいだ。
募金活動ならきっと私も協力しそうだ。
61 2017年11月号 阪西 敦子 露草をハイソックスのひとつ飛び

つゆくさをはいそっくすのひとっとび
露草
60 2017年10月号 阪西 敦子 星月夜お持ち帰りのビザはL

ほしずきよおもちかえりのぴざはえる
星月夜
59 2017年9月号 桜井 教人 枇杷の実の重なり生りて寂しがり

びわのみのかさなりなりてさびしがり
枇杷の実
58 2017年8月号 阪西 敦子 ででむしの歌舞伎座裏の住まひかな

ででむしのかぶきざうらのすまいかな
ででむし
57 2017年7月号 関 悦史 初夏の荷にボブ・マーリーの切手かな

しょかのににぼぶまーりーのきってかな
初夏
56 阪西 敦子 夜濯にホテルの小さきソープかな

よすすぎにほてるのちさきそーぷかな
夜濯
講評・阪西 敦子

旅の夜、その日着たものを宿で軽く洗えば、翌日までに乾いて、それを身に着けて出発する、そんなふうに続ける旅なのであろう。
異境にかいた一日の汗が静かに流れてゆく。
その安堵は常にも増して。
55 2017年6月号 桜井 教人 パソコンの前で居眠りシクラメン

ぱそこんにまえでいねむりしくらめん
シクラメン
54 2017年5月号 阪西 敦子 春泥と戯れる子の悔い少し

しゅんでいとたわむれるこのくいすこし
春泥
53 2017年4月号 阪西 敦子 春寒のパンを焦がしてゐたりけり

はるさむのぱんをこがしていたりけり
春寒
52 関 悦史 閼伽桶に雑然と入る花樒

あかおけにこつぜんといるはなしきみ
花樒
51 2017年3月号 桜井 教人 梯子乗法被の背ナの逆さ文字

はしごのりはっぴのせなのさかさもじ
梯子乗 新年
50 2017年2月号 阪西 敦子 シマウマの縞は白黒枯野原

しまうまのしまはしろくろかれのはら
枯野原
49 2017年1月号 関 悦史 懐手竜馬は何を隠し持つ

ふところでりょうまはまにをかくしもつ
懐手
48 阪西 敦子 転がして絨毯敷いて寝転んで

ころがしてじゅうたんしいてねころんで
絨毯
講評・阪西 敦子

丸めて筒状の絨毯を、開くところである。
端を持ってえいやとひらくのではなく、部屋の端に据えてころころと内側に伸ばしてゆくところを見ると、ぎっしりと重みのある絨毯らしい。
力の勢いで、開いた絨毯に寝転んでいるところ。
47 2016年12月号 関 悦史 祖母母も私も白髪菊枕

そぼははもわたしもしらがきくまくら
菊枕
46 阪西 敦子 鼓笛隊色なき風を膨らませ

こてきたいいろなきかぜをふくらませ
色なき風
45 2016年10月号 阪西 敦子 銀漢の流れに任せ会ひに行く 

ぎんかんのながれにまかせあいにゆく
銀漢
講評・阪西 敦子

天の川の沿って来たら、着いちゃったよ。
甘い、甘すぎる。
しかし、すこし涼しくなってきたこんな夜には、そのくらいのことも受け入れられそうだ。
任せているのは、動き出した自分の気持ちかもしれない。
44 2016年9月号 関 悦史 門涼み宅急便を受取りぬ

かどすずみたっきゅうびんをうけとりぬ
門涼み
阪西 敦子
講評・関 悦史 

何気ない、いかにも日常的な場面の中に、「門涼み」の閑雅さから、突然の宅急便受け取りへの急展開がしくまれていて、そこにおしつけがましくないユーモアがあり、「門涼み」も改めて生きた言葉になっています。


講評・阪西 敦子

門涼みなどは特別なしつらえもせず、空いた時間を生活の場の側で涼むのだけれども、涼んでいる人にとっては、止まったようでもある時間。その時間を訪ねてきた宅急便が通常の時間へ門涼みを引き戻す。  
43 2016年8月号 関悦史 カッコーとペプシコーラとコカコーラ

かっこーとぺぷしこーらとこかこーら
郭公
42 2016年7月号 桜井 教人 夏期講座ミニ盆栽にミニフィギュア

かきこうざみにぼんさいにみにふぃぎゅあ
夏期講座
41 2016年6月号 桜井 教人 桜鯛螺鈿細工の夫婦箸

さくらだいらでんざいくのめおとばし
桜鯛
40 阪西 敦子 ネットなきゴールリングを花吹雪

ねっとなきごーるりんぐをはなふぶき
花吹雪
講評・阪西 敦子

実直な、実直過ぎる句。
バスケットゴールはもとは瀟洒な庭先などにあって、子供の成長や、家族の変容によって、その枠のみがのこっている。
降るものが何かを通過するのは常にぞくぞくするけれど、この景の引き起こすものは大きい。
39 2016年5月号 阪西敦子 北開くゲームアプリを消去せよ 

きたひらくげーむあぷりをしょううきょせよ
北開く
38 2016年4月号 関悦史 竿球を磨く建国記念の日

かんきゅうをみがくけんこくきねんのひ
建国記念の日
37 2016年3月号 桜井教人 さいころの吸ひ込まれゆく初掃除

さいころのすいこまれゆくはつそうじ
初掃除 新年
36 2016年2月号 阪西敦子 角巻の母に似てをる姉の背ナ

かくまきのははににてをるあねのせな
角巻
35 2016年1月号 阪西敦子 折畳み傘を畳みて冬の虹

おりたたみかさをたたみてふゆのにじ
冬の虹
34 関悦史 冬浅し手綱蒟蒻煮しめをり

ふゆあさしたづなこんにゃくにしめをり
冬浅し
33 2015年12月号 桜井教人 螻蛄鳴くやベリーダンスのシルクの香

けらなくやべりーだんすのしるくのか
螻蛄鳴く
32 2015年11月号 阪西敦子 竜淵に潜むエビアンの宅配

りゅうふちにひそむえびあんのたくはい
竜淵に潜む
31 2015年10月号 関悦史 眠さうな小象率ゐて月下行く

ねむそうなこぞうひきいてげっかゆく
月下
30 2015年9月号 桜井教人 葉桜や化粧を落とす名子役

はざくらやかしょうをおとすめいこやく
葉桜
29 2015年8月号 関悦史 避暑の子の日本語英語西班牙語

ひしょのこのにほんごえいごすぺいんご
避暑
28 2016年7月号 関悦史 草笛を吹く唇の甦る

くさぶえをふくくつびるのゆみがえる
草笛
27 関悦史 葭簀ごしキリマンジャロの救護ヘリ

すどごしにきりまんじゃろのきゅうごへり
葭簀
26 2016年6月号 加根兼光 秘め事を五月の第五日曜日

ひめごとをごがつのだいごにちようび
五月
25 関悦史 綿棒の固まつて出る遅日かな

めんぼうのかたまってでるちじちかな
遅日
阪西敦子
講評・関悦史

一見、格段の新鮮味というほどのものはないが手堅いという作りの句ですが、
固まってでてきた綿棒の感触が「遅日」そのものの触感に転じているような面白みがあり、
じつは共感覚的な意外性もひそんでいます。
24 2015年5月号 阪西敦子 夕霞薄荷脳てふキスの味

ゆうがすみはっかのうというきすのあじ
夕霞
23 2015年4月号 関悦史 スリッパの左右決めかね春愁ふ

すりっぱのさゆうきめかねはるうれう
春愁ふ
22 2016年3月号 加根兼光 若者のどやどやと来て寒見舞

わかもののどやどやときてかんみまい
寒見舞
21 加根兼光 愛犬の自慢途切れぬ話初

あいけんのじまんとぎれぬはなしぞめ
話初 新年
20 2015年2月号 阪西敦子 とんとんと嘯く終相場かな

とんとんとうそぶくしまいそうばかな
終相場
19 2016年1月号 関悦史 ペンギンの北を向く足御講凪

ぺんぎんのきたをむくあしおこうなぎ
御講凪
18 関悦史 湯豆腐や築地銀ブラ大歌舞伎

ゆどうふやつきじぎんぶらおおかぶき
湯豆腐
17 2015年12月号 加根兼光 水蜜桃剥くしなやかな指愛し

すいみつとうむくしなやかなゆびいとし
水蜜桃
16 2015年10月号 関悦史 中華街色なき風にある匂ひ

ゅうかがいいろなきかぜにあるにおい
色なき風
15 2016年9月号 加根兼光 睦言を見られています夏の月

むつごとをみられていますなつのつき
夏の月
14 阪西敦子 風鈴の舌を外されしどけなし

ふうりんのしたをはずされしどけなし
風鈴
13 2014年8月号 阪西敦子 女伊達男伊達とやビール酌む

おんなだておとこだてとやびーるくむ
ビール
12 2014年7月号 関悦史 雄蕊なき白百合強く匂ひけり

おしべなきしらゆりつよくにおいけり
白百合
11 2014年6月号 関悦史 鶯やゴム手袋を裏返す

うぐいすやごむてぶくろをうらがえす
10 2014年5月号 関悦史 風車止む紫の赤と青

かざくるまやむむらさきのあかとあお
風車
9 2014年4月号 関悦史 チューリップ咲きて日蘭辞書開く

ちゅーりっぷさきてにちらんじしょひらく
チューリップ
8 2014年2月号 関悦史 臼起ししたくも搗き手居らぬなり

うすおこししたくもつきておらぬなり
臼起し 新年
7 2014年1月号 関悦史 木枯を逆流させる滑り台

こがらしをぎゃくりゅうさせるすべりだい
木枯
6 2013年12月号 加根兼光 秋鯖を捌く手つきの上手さうな

あきさばをさばくてつきのうまそうな
秋鯖
5 2013年11月号 阪西敦子 長き夜をゴットファーザー観ませんか

ながきよをごっとふぁーざーみませんか
長き夜
4 2013年10月号 関悦史 ナンプラー匂ふ屋台に星月夜

なんぷらーにおうやたいにほしつきよ
星月夜
3 2013年9月号 加根兼光 梅漬くる妻のおゐどの艶めかし

うめつくるつまのおいどのなまめかし
2 2013年8月号 関悦史 走り去る改造バイク宵祭

はしりさるかいぞうばいくよいまつり
宵祭
1 2013年6月号 加根兼光 春燈に影絵の指を翳しけり

しゅんとうにかげえのゆびをかざしけり